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ファラフェルの味

ファラフェルの味

by MayuYasunaga on 2021.3.17 Wed

パリのソウルフード

料理家のリリーさんが「Mon an」の店主となったのが昨年の秋。メニューも少し変わったと聞き、オープン後しばらくして店に足を運んだ。メニュー表を見て、すぐに目に飛び込んできたのは「ファラフェル」の文字。

やった!ファラフェルが食べられるぞ。

「ファラフェル」は中東の伝統料理で、日本語では「ひよこ豆のコロッケ」と訳されることが多い。ファラフェルの入ったサンド自体を「ファラフェル」と呼ぶこともある。東京には専門店があるけど、福岡では味わえる店が少なく、比較的マニアックな料理。見かけると必ず注文する好物だ。例によって、「Mon an」のファラフェルも頼まないわけにはいかない。

食べている途中、記憶のどこかに何かが引っかかる気がした。前に経験したことのあるような、なつかしい感覚。さらに記憶をたどっていくと、パリの景色が目の前に広がってきた。

緑色の外観の、行列のできる店。そう、ここだ。リリーさんの作るファラフェルは、マレ地区にあるファラフェル専門店「L’as du fallafel(ラス・デュ・ファラフェル)」の味にそっくりなんだ。スパイシーで塩気の効いたサクサクの衣に、ほっこりほくほくの豆のコロッケの甘み。「サクサク」というか「ザクザク」ってくらいのあの食感。時間の経過とともに、記憶の奥底にある情景や感情が、波のように押し寄せてくるのだった。

4区、マレ地区、ロジエ通り

ファラフェルを知ったのは、語学留学でフランスへ行った学生時代だった。おしゃれな若者や感度の高い大人が遊ぶエリアのひとつが、パリ4区にあるマレ地区。そこにあるロジエ通りに、「L’as du fallafel(ラス・デュ・ファラフェル)」というファラフェル専門店がある。初めて行ったのは、たしか18歳の時。パリもマレも、中東もファラフェルも初めての体験だった。

「ラス・デュ・ファラフェル」は、ピークタイムを外しても行列ができる人気店。ヨーロッパ系や中東系の人たちの列に入るのはちょっぴり緊張するけど、「ここはそういう街だ」と思い切ってぱっと並ぶのがおすすめだ。

コロッケや野菜がピタパンに挟まれ、酸味のある白いソースがかかるファラフェル。ソースはたしか他にもあって、「これとこれを混ぜて」という注文もできたような。私はマヨネーズ(フランスでは「マヨ」という)系の酸味があるソースと、スパイシーな赤いソースを混ぜてもらって、思いきりジャンクにして食べるのが好きだ。ソースがこぼれていても、包み紙が油でベタベタでも全然オーケー。塩気はしっかり効いているけど、豆でギリギリヘルシーだし。1個7ユーロくらいだったかな(今はもっと値上がりしていると思う)。

直近でパリに滞在したのは、2012年の4月末から5月にかけて。そのうち数日間は半袖で過ごせるほどの、「初夏」と言うには暑すぎる日が続いた。この時期のヨーロッパは、夜の10時過ぎごろまで空が明るい。思い出すのは、さわやかな風と強い日差し。それから、食べ物やフレグランスが混ざり合った混沌としたにおいに、いろんな国の言葉の話し声。パリは色も音もとにかく多様で、私はそうした空気の中に身を置くのがすごく好きだ。

この時撮った写真は、同じマレ地区にある西アジア料理店「Chez Marrianne」のファラフェルしかデータに残っていなかった。

そんな記憶の断片をなぞりながら、「これって、ラス・デュ・ファラフェルの味ですよね?」と聞くと、「そうなんです。なんでわかったんですか!」とカウンター越しのリリーさん。まさかここで、あのファラフェルの味に再会するとは思わなかった。「味で記憶がよみがえる」なんてドラマチックな出来事は、意外な場所で待ち受けているのだ。

やっかいなのは、心地良い感覚だけではなく、その時の感情も呼び起こされてしまうことだ。迷い、あきらめ、虚無感という、白黒つかないスパイス尽くし。だから、後味は少しあいまいで、ほろ苦い。それが私のファラフェルの味だ。

幸い、この日選んだギリシャの赤ワイン(クシノマヴロ)はファラフェルとよく合い、当時のやるせない気持ちを溶かしてくれた。そうした小さな恩恵に、私は、あるいは私たちは日々救われている気がする。

〈Shop〉

Mon an(モンアン)
福岡市中央区赤坂3-9-2 大産赤坂ビル1階[Map

アジア大陸から中東、ヨーロッパに渡る民族料理を、おいしい自然派ワインと一緒に味わえるエスニック料理店。かわいい象のロゴマークが描かれた看板を目印にどうぞ。「むらた」の隣、「ギャラリーモリタ」の下です。

L’As du Fallafel(ラス・デュ・ファラフェル)
32 Rue des Rosiers, 75004 Paris, FranceMap

パリでも特に有名 なファラフェル専門店。テイクアウトはス ナック感覚で楽しめるソウルフード。イートインなら、ファラフェルのプレート&ビ ールで 楽しみたい。パリ4区、ロジエ通り。最寄りは地下鉄1号線の「Saint-Paul(サン・ポール)」駅。

Writer
安永 真由

ライター / ディレクター