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4月に観た2本の映画

4月に観た2本の映画

by MayuYasunaga on 2021.5.13 Thu

文章を書く仕事をしていながら、時間があるときは実は本よりも映画だ。劇場で観られるものはなるべく劇場で。本はその移動時間に読むことが多い。普段は仕事で字を見てばかりなので、五感をなるべく均等に使えるよう、からだがバランスをとっているのだと思う。

コンセプチュアルなコピーを書くときは、イメージから考えていくので映画や音楽が、いざというときにインスピレーションをもたらしてくれることもある。4月に観た2本の映画はどちらも良かったので、観て考えたことを書き留めてみようと思った。


『パーム・スプリングス』 原題『Palm Springs』

「カップルのタイムループモノ」とくくれば、定番のテーマのようで、どんな内容かだいたい想像できる気はするけど……。と、最初は劇場で観なくてもいいかと思っていた作品。でも、観てよかった。なぜ観に行ったかというと、メンズ誌『ゲーテ』に掲載されていた俳優の滝藤賢一さんのコラムを読んだからだ。「結婚式という1シチュエーションを使い回ししているし、CGがチープなのも最高!」とあり、作品がどう作られているのかを確かめたくなったのだ。

LA郊外のパーム・スプリングスという小さなリゾート地で、結婚式に出席する。そのたった1日を、主人公ナイルズはかれこれ1万回以上も繰り返している。そのタイムループに突然巻き込まれ、混乱するサラ。同じ時間を繰り返す2人の関係が次第に近づいていく……というストーリーだ。困難な状況にどう立ち向かうのか。変化のない日々の連続を、どう過ごしていくのか。このありふれたテーマを新鮮に見せてくれるのが、まさに期待のCGだった。

星空が広がる夜の砂漠なんていうロマンチックな場面で、ネッシーみたいな恐竜が紙芝居みたいにゆさゆさと動く。シリアスなのにライト。絶妙なバランス感覚だった。ブラックユーモアとちょっとした下ネタ、そして傑作CG。西海岸やリゾートを思わせる音楽もテンポがよく、作品全体を軽快にまとめる。何も考えず、ラフな気分でたのしめる大人のラブコメディです。

◆上映館:キャナルシティUC13 プレミアムダイニングシネマ

平日夜に鑑賞。プレミアムダイニングシネマに最適な作品だった。この日はカジュアルシート(鑑賞券+食事券1000円)。鑑賞券には割引も適用されるし、食事も高くない。何よりお酒を飲みながら観れるんだから、言うことありません。作品の内容と長さによっては、リクライニングでくつろげるラグジュアリーシート(鑑賞券+食事券2000円)がおすすめ。
https://www.unitedcinemas.jp/dining_cinema/

※緊急事態宣言中は時間を短縮して営業。アルコールは提供なしのようです。

映画を観た帰り、がらんとした夜の館内を歩くのが好きだ。住吉側から出て、南新地のバス停へ向かって歩くと「しんばしビル」が見える。この日は月がきれいで、雲ひとつない澄んだ空だった。チープな恐竜のCGでも出てこないかな。


『アンモナイトの目覚め』 原題:『Ammonite』

舞台は1840年代のイギリス南西部、海辺の町ライム・レジス。古生物学者のメアリー・アニングが、ロンドンから訪れた化石収集家のロデリック・マーチソンと、妻のシャーロットと出会うことから物語は始まる。ロデリックは「病気の静養のために」と、シャーロットを無理やりメアリーに託す。人付き合いが苦手で堅物の“化石のような”メアリーと、社交的で明るい若きメアリー。この対照的なメインキャストを、名優ケイト・ウィンスレットと実力派の若手シアーシャ・ローナンが演じる。

無駄な言葉のないソリッドな脚本。作品全体をつなぐ自然音、そして化石を削る音。19世紀のイギリスを映し出す品のいい衣装と美術。極限までそぎ落とされた構成要素。こういうやり方こそ職人技というか、仕事の緻密さが現れるところ。余計なものを足さないからこそ、リアリティが浮かびあがる。メアリーとシャーロットの一挙一動が、ドキドキするくらい親密な距離でスクリーンにあぶり出されるのだ。波の音や弦楽器の音色が、2人の心の声に呼応する。息をのむ瞬間。絡みあう視線。恍惚として漏れ出る吐息。ああ、正直、なんだかやらしい気分になりそうだった!

メアリーとシャーロットの感情が交わるときは、スクリーンを越えて幸福感が伝わってくる。名優たちの静かな演技力・表現力にいつの間にかのみこまれて、観ている側も幸せな気持ちになれる。その代わり、胸が痛むような切ないシーンもある。心がひきさかれそうになるけど、最後に残る印象は「やさしさ」と「愛おしさ」だ。そうした感情は日々、心に押し寄せては引いていくものなのだろう。ライム・レジスに吹く風のように、浜辺に打ち寄せる波のように。

◆上映館:kino cinéma天神

事務所からも自宅からも徒歩10分。警固1丁目で映画が観れるなんて! 平日夜のレイトショーでゆったり鑑賞。どのシアターも比較的小バコなので、単館好きはぜひ。会員制度もあり。
https://kinocinema.jp/tenjin/


アンモナイトと言えば、思い出したのが1月に熱海の「MOA美術館」で観たこの作品。天井がアンモナイトみたいに見える(ただそれだけ!)。 館内へと続く円形ホールの一面に、世界最大級の万華鏡がプロジェクションマッピングされている。万華鏡が動くたびに投影される模様が変わり、夕焼けみたいに赤くなったり、海の底にいるみたいに青くなったり。

Writer
安永 真由
安永 真由

ライター・ディレクター