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雨の郷愁

雨の郷愁

by EtoKatagiri on 2021.6.11 Fri

今年は梅雨入りが早かったですね。暗い子供だった私は、外に遊びに行かない口実になる雨が好きでした。朝、窓を打つ雨の音で目覚めた日曜は、今日は1日本を読んで過ごせる!とベッドの中で小躍りしたものです。

読書は子供時代の私にとって現実逃避のツールであり、サチコとかタカシとか日本人の名前が出てくると途端に現実に引き戻されるため、なるべく海外の作家のものを読むようにしていました。逃避したいほどの現実が子供にあるのか?と思う人もいるかもしれませんが、私にはあったのです。

私は福岡県嘉麻市の出身です。かつて炭鉱で栄えた町で、“筑豊”という名でくくられる地域ですが、なんでしょう、ちょっとヤンチャ?な土地柄?なのかな??ここの出身と言うと県内の人はだいたい眉をひそめ、筑豊ナンバーの車に過敏に反応します。筑豊の環境がデフォルトだった私は、どの学校の中庭にもシンナーを吸った後のビニール袋は落ちているものだし、暴走族のバイク音は毎晩聞こえるものだし、クラクションを鳴らしただけで発砲されるものだと思っていました。とにかく田舎で閉鎖的、夢も希望もあったもんじゃない。必然的に都会や海外への憧れが強くなり、大人になったら絶対ここから抜け出してやるんだと、せっせと海外小説を読んだのでした。

そして上京した私は、ちょっと手を伸ばせば日本の中心の出来事に触れられる東京の街に、えらく興奮しました。娯楽施設がスーパーしかない田舎から出てきたことも忘れ、モデルやDJ、デザイナーなどのおしゃれ界隈の人々と交流することで、自分までイケてる女になったと勘違いしたのです。

ある時、おしゃれ仲間たちと飲んでいた夜のこと。上機嫌でおしゃれトークを繰り広げ、ハイペースで酒を飲みまくり、ちょっと失礼♪と気取ってトイレに行き、鏡を見ると前歯が欠けていました。私はほんのり歯が出ていますから、きっとビールジョッキが当たったのでしょう。当然、おしゃれ仲間たちは前歯が欠けていることを教えてはくれません。あの時の衝撃と言ったら。筑豊ナンバーのプレートで頭をぶっ叩かれた気分でした。

ふとした時に出るイントネーションはねっとりとした筑豊弁の調べを奏で、ドヤ顔の背後にはボタ山の守護霊がそびえ立つ。おしゃれ界隈の人々は、田舎臭を消せない滑稽な私を陰で笑っていたのかもしれません。大嫌いだった地元。1日も早く抜け出したかった地元。それでも地元の友達ならば「絵都ちゃん、鼻くそピロピロしちょうよ」などと親切に教えてくれるのでしょう。

今年の梅雨は雨の日が少ないように感じます。もう何年も帰っていない筑豊に、久々に足を運んでみようかと思わせてくれる空梅雨です。

地元のマスコットキャラクター、河童のなつきちゃん。

Writer
片桐 絵都
片桐 絵都

ライター