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シロちゃん、岡本太郎、ミンチカツランチ。

シロちゃん、岡本太郎、ミンチカツランチ。

by MayuYasunaga on 2021.7.13 Tue

太宰府天満宮に「シロちゃん」という馬がいたらしい。正式な名前は「白梅号」で、通称「シロちゃん」。シロちゃんは、天満宮で毎年1月に開催される「鬼すべ神事」に登場する「御神馬」として大切にされていたが、数年前に亡くなったそうだ。生前、「鬼すべ」を控えて馬小屋で休むシロちゃんの姿を、太宰府天満宮宝物殿で開催中の「ホンマタカシ 鬼と白い馬」展で観ることができる。

常設展示スペースを抜けると、暗幕に包まれた大きな部屋が現れる。「鬼すべ」が奉納される夜のシロちゃんの姿が、スクリーン上で息を吹きかえす。白くてしなやかなからだは青白く光り、馬小屋そのものが神々しい空気に包まれている。鬼すべ神事の夜の映像が、ただそこに流れているだけだ。

「御神馬」としての気高さに満ちたシロちゃんは、静かに休んでいたり、せわしなく歩き回ったりと、馬小屋にいる間に多彩な表情を見せる。当然言葉は話さないんだけど、目やからだでこんなにたくさんのことを語り掛けてくれるのか。いつの間にか、シロちゃんの魅力に引き込まれていく。

「鬼すべ神事」の音と光景とシロちゃんとが、不思議な気持ちに誘ってくれるというか。なんだか異世界に迷い込んだような感じがして、ドキドキしたり、心が不安定に揺らいだり、かわいいなぁと思ったり。ついつい長居してしまった。

あとでチラシを読み直すと、「鬼すべ堂」近くにあるシロちゃんの馬小屋や運動場の場所が書かれているではないか! 帰る前にちゃんと見ておけばよかった。

そうそう。太宰府に来たのは、実は仕事が理由で。九州国立博物館の広報誌『Agiage(アジアージュ)』制作の打ち合わせに行ってきたのだ。

仕事終わりに、7月から始まった特集展示「古代ガラスの世界」を鑑賞。古代ガラスって、いろんなかたちや色があるなぁ。作品はすべて岡山市オリエント美術館の所蔵品。西アジアで生まれ、シルクロードを渡って日本にもたらされた古代ガラス。奥が深いぞ……。

それで、せっかく太宰府にいるんだから、周辺でランチでもできればと思いながらも、結局西鉄に乗って天神方面へ。一人でちょっとゆっくりしたいなと思った時にはここに限ります、「新天町倶楽部」。

頼むのはいつもだいたい「ミンチカツランチ」か「オムライス」(各620円)。この日は「ミンチカツランチ」のほうにした。シロちゃんの映像作品の余韻に浸りつつ、お腹も空いていたので遅めの昼食をガツガツとたいらげる。

「ミンチカツランチ」は、私が知る限り最強の洋定食だ。胡椒が効いたサラスパに、和風ドレッシングのかかったキャベツのサラダ。ミンチカツには玉子とデミグラスソース。これに福神漬けを添える。ソース交じりのサラスパとライスは言うことなし。

さらに、それぞれをちょっとずつ組み合わせて食べるのもたまらない。まさしくミールス的発想。酸味や塩味がうまく重なった時は、心の中で「うわ~最高」とかうなりながら、620円ですごく満たされた気分になれるんです。

レトロな色味のオレンジ色のいす、テーブルにあるピンクのダスター。そして、岡本太郎。作品自体は昔からあるから経年で色あせてる部分もあるけど、働く人であふれる大衆食堂で出会えるなんて、めちゃくちゃ尖ったアート体験だ。

ここに来るのは絵を見に来る人じゃなくて、ごはんを食べに来る人。でも、そんな場所にある絵画こそ、本当の意味でのアートなんだ。そんな場所にこそ一流の美術品が飾られるべきだって、いつも考える。その意味で、ここにある岡本太郎の一枚は、私にとって最も望ましいアートのあり方。

最強のランチと理想の芸術。「新天町倶楽部」につい足が向く理由が今日、はっきりとわかってよかった。

「ホンマタカシ 鬼と白い馬」
開催中~8月1日(日)
太宰府天満宮宝物殿 企画展示室・境内
https://keidai.art/event/717

「古代オリエントの世界」
開催中~10月3日(日)
九州国立博物館 文化交流展示室 第8・9室
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_pre171.html

新天町倶楽部
福岡市中央区天神2-7-1
http://www.shintencho.or.jp/shintencho_club/index.html

Writer
安永 真由

ライター / ディレクター