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復讐という名の糧

復讐という名の糧

by EtoKatagiri on 2021.8.30 Mon

最近『宝石の国』という漫画にどハマりしました。かつて存在した生物が長い年月を経て不死の“宝石”となり、月から飛来する敵“月人”と戦うというのがざっくりしたストーリーなのですが、まぁ~~美しいし暗い。読んだことのない方にはぜひ読んでいただきたいので、詳しい内容は書きませんが、作中に「大衆には継続可能な低い目標と目先の休みが必要だ」という台詞が出てきます。本当にその通りだなぁと思います。これ終わったら絶対ハーゲンダッツ食ってやるんだ!などと思わなきゃやってらんない仕事もあります。しかもこの作品に登場する宝石や月人は死なないところがミソで、絶えず進展していない不安に侵され、無理にでも問題を探し出して小さな安心を得る。それを永久に繰り返す苦痛は計り知れません。『銀河鉄道999』の鉄郎も、命は限りがあるから美しいし大切なんだと、機械の体ではなく人間であり続けることを選びましたよね。

また作中には「最も人間的な感情は復讐だ」という台詞も出てきます。私も例に漏れず根に持つ人間で、傷つけられたら一生許しませんから、復讐という感情は常に心の特等席にいます。昔働いていた職場で、入社2日目に先輩にランチに誘われました。特にその人に興味もないし(女だし)、よく知らないから話すこともないし、面倒くさいのでヘラヘラ笑っていたら、「片桐さんモテるでしょ?」と聞かれました。「モテないですよ~」とお決まりの返答をしたら、「男は美人にはなかなかいきづらいから、片桐さんぐらいがいちばん手を出しやすいのよ」と真顔で言われました。また別の先輩には、事務所の床が汚いから気分が下がる、気分が下がると会社の売り上げが下がる、床が汚いのは放置しているお前のせいだから、売り上げが悪いのはお前のせいだと言われ、終電まで一人で床を磨きました。他にも、謎のラッピング用リボンがアスクルで大量に届いた時に発注した犯人にされたり、「野菜生活を買ってこい」と言われて「何味ですか?」と聞くと「味なんて1種類しかねーだろ」とブチギレられたり(だって黄色とか紫とかあるじゃん)、ボーダーのTシャツにショートパンツを穿いていたら「麦わらの一味かよ」とブチギレられたり、黒のノースリーブニットに赤のロングスカートを穿いていたら「未亡人かよ」とブチギレられたり、デニムのセットアップを着ていたら「工場長かよ」とブチギレられたり、前歯にびっしり口紅がついた先輩に「顔のテカリどうにかしろよ」とブチギレられたり、伸ばしかけの髪を小さく結んでいたら「気色悪い」とブチギレられたり、まぁ大したことではないし、理論上は全て正しいのかもしれませんが、あれらは一体どういう種類の悪意だったのだろうと、今でもふと考えることがあります。結局、一矢報いることなく私はその職場を離脱しました。もう彼女たちに会うことは一生ないでしょう。機会さえあればいつでも復讐する準備はできていますが、そんなことに心を費やすのはもう馬鹿馬鹿しいと思うほどに、私は大人になってしまいました。もし今パシられたとしたら野菜生活はコンビニにある全種類を買って選んでもらうし、もうボーダーのTシャツは着ないし、顔の皮脂も加齢とともに減りました。諸先輩方のお言葉を胸に、私は立派な女性へと成長したのだと自負しております。

でもどうせ復讐するならば、スマホとパソコンを壊れるか壊れないかのギリギリのラインまで水没させて定期的に不具合が起きるようにし、ジャケットの裏地にカレーのシミをつけてずっと臭うけどどこについているかわからない地獄を味わわせて、と、そんな妄想をしているだけでもちょっぴり元気になれて、いつかやってやるんだという人生の目標にもなることに気づきました。そうか、あれらは全て、私を明日も生かすための悪意であり、それはもはや愛と言えるのではないか。これからは私も、誰かの生きる糧になるため、関わる人全てにネチネチと嫌なことをしていこうと思います。あ、そしてこれもまた私の人生の目標になるな。大きな愛に気づかせてくれる『宝石の国』、ぜひ読んでみてください。

Writer
片桐 絵都

ライター