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勉強机とその付属品について

勉強机とその付属品について

by TeamDice on 2022.1.21 Fri

僕は勉強机が嫌いだった。小学生の頃にはもうずいぶん嫌いで、中学生になってからはほとんど使ってもいなかったと思う。高校生の時訪れた引越しのタイミングで、「荷物になるし」とか適当なことを言って親を説得し、どうにかこうにか捨てたのを今でも覚えている。

なんといってもあのデスクライトが嫌だった。やたらと広範囲をむやみに力強い光でこれでもかと照らしてくれるT字型の大きな白いデスクライト。コンセントタップも付いて、自由に角度も変えられる。とにかく過剰に便利な奴だった。

便利なのはいいとして、便利すぎるのはありがた迷惑だ。このデスクライトを筆頭に、勉強机とその付属品たちの「君のために環境は整えてあります。さあ成長しなさい」的な恩着せがましい態度が、僕はもう嫌で嫌でしかたがなかった。

本当は勉強なんか部屋の明かりがあれば充分だっていうのに、例のデスクライトがあるせいで、夜中に勉強していないと、なんとなくサボっている感じがしてくる。

試験勉強とか受験勉強とかの時期は尚更で、ちょっと早く寝床に入ろうものなら、ロウソクの明かりだけを頼りに勉強している丸坊主でハチマキ姿のいわゆる苦学生が、僕の脳内に現れて「いいよな君は」と冷たい視線で嫌味を言ってくる。

彼からのプレッシャーに負けて、夜中に部屋の電気を消し、デスクライトだけ灯して机に向かってみたこともあったが、どうしても「わざわざ部屋の電気を消す必要はあるのだろうか」という疑問がずっと心に引っかかって、けっきょく勉強はほとんど手につかない始末だった。

備え付けの引き出しだってそうだ。僕の勉強机の引き出しの一番上の段は、仕切り板で自由に区切れるようになっていて、小物をきれいに整頓できるよう工夫されていた。

とりあえず全ての仕切り板を適当に差し込んで、できた四方形の小さなスペースたちに、持っている文房具をひとつずつはめていく。

鉛筆、消しゴム、定規、分度器。僕の持っているありったけの文房具を全て入れ尽くしても、
埋まったのは引き出しのほんの一部だけだった。

学年が進めば自然と埋まるものなのだろうと、気にしないように生活していたが、それからも一向に埋まる兆しはない。

ひょっとして全国の同世代の子供たちは、僕がのんびりしている間に、この小さなスペースに「未知の文房具」をたくさん収納して、それを使いどんどんハイレベルな勉強に取り組んでいるのではないか。

引き出しの空いたスペースを目にするたびに、未だ見ぬ謎の文房具をいろいろ想像して、いちいち劣等感を抱いてしまうようになった僕は、ついにもう引き出しを開くのをやめてしまった。

プリントを挟めるようになっていた半透明のデスクマットは、カッターで切った時のムギューという感覚が気持ちよくて、夢中でどんどん切っていると、あっという間にガタガタになって、書くたびに文字が歪んでしまう。

コロコロ転がりくるくる回り、レバーを引くと上がったり下がったりするデスクチェアは、調子に乗るとひどいめまいと吐き気に襲われる。

机の上のブックスタンドに付いた小さな引き出しは、何を入れるにしても小さすぎて、これはもはや便利でもなんでもなく意味不明。とりあえずおじいちゃんにもらった綺麗な石を入れて、たまに開けて眺めたりしていたが、気づいた頃には引き出しごと全部どこかへいってしまった。

とにかく、あの頃の僕にとって勉強机は鬱陶しい存在でしかなかった。勉強机を粗大ゴミに出したあの日、「もうこんなもの一生いらない」と心に決めたはずだったが、齢32にして、今いちばん欲しいものが、あろうことか「勉強机」であることに最近気付いてしまった。

大人になった今「勉強机」なんて幼稚な呼び名はどこかへいって、「書斎」などとなんとも高尚な名前で呼ばれ、余裕ある大人の持ち物の代名詞のように語られている。

妻子供がおり、それほど広くないマンションにしか住めていない僕が、今さら「自分の部屋が欲しいんだけど」とか身勝手なことが言えるはずもない。家族の目を盗んで、物置の一角に場所を確保するので精一杯だ。

この文章も物置で身を縮めながら書いている。部屋の明かりじゃ手元が暗くて目がかすむ。目の前には細々としたものが散乱している。もう腰が限界だ。

今あの勉強机があったとしたらどんなに快適なことだろう。もう調子に乗らないと誓うから、あのくるくる回る椅子だけでも今すぐ欲しい。

無くなって初めて物のありがたみを知る。人間はなんともややこしい生き物だ。

娘が小学生にあがったら、とびきり多機能な勉強机を買おう。別にこれは変な当て付けとかではない。やっぱり勉強机は無駄に多機能なぐらいがいいような気がする。

そしていつか彼女が「勉強机を捨てたい」と言ってきた日には、できるだけ平静を装って、一緒に粗大ゴミへ捨てに行きたい。それが今から楽しみだ。

Writer
Team Dice

ダイスアンドダイス スタッフ