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都市と文化
by MayuYasunaga on 2023.3.27 Mon
雑誌『GOETHE』4月号で、執筆した記事が掲載されました。担当した記事は特集「人生が一変するお買い物 アートがなければ生きていけない!」の中のひとつ。株式会社Zero-TenのCEO・榎本二郎さんを取材しました。
ご自宅におじゃまして、所有する作品を見せていただきながらインタビュー。さらに、福岡のまちにインストールされている作品も追いかけながら、「都市×文化」というキーワードで6ページにわたって記事を執筆しています。
二郎さんのアートへの造詣の深さは、いろんな方から話を聞いて知ってはいたのですが、初めてその審美眼に触れたのは、二郎さんの所蔵する作品が展示されていた福岡市美術館で開催された企画展「コレクターズ アートと生きる四人」でした。
福岡市美術館からの眺め
その時みて衝撃的だったのが、ピカソが10代後半で描いた、妹ローラの肖像画『Portrait of Lola』。おさえてもあふれ出てくるような青年時代の葛藤と狂気に、視線も思考も見事に引き込まれました。
それから、ブルックリンで活動する現代アート作家トニー・マテリの作品『Feet(Nectarines)」。(おそらく)石膏で作られたモダンでスマートな彫刻で、NY的な洗練されたユーモアがあふれています。
展示されていたほか数点の作品を観て感じたのは、選んだ人の内なる混沌や葛藤というか。ただ「かっこいい」だけじゃない、ウィットに富んだ二郎さんのセレクトにしびれて、いつか話を聞いてみたいと思っていたわけです。
「BAR010」
そのチャンスは思ったより早くめぐってくることになりました。『GOETHE』の前号で、博多区住吉に新しくできた「010BUILDING」のバー『BAR010』を取材したときに、偶然居合わせた二郎さんと出会い、あいさつすることができました。
その時編集者に投げていた「おまけ」の情報が、意外と早く仕事になりまして。「こういう種まきって本当に大事だな」と、仕事の姿勢をあらためて考え直すきっかけにもなりました。
「The Companyキャナルシティ博多前店」のキキ・スミスの作品
自宅におじゃまして拝見した磯崎新先生の『再び廃墟になったヒロシマ』は、横3メートルにも及ぶシルクスクリーンプリント。額装前だったので、両端をZero-Tenのスタッフさんに支えてもらって何とか撮影できました。
複合ビル「天神ビジネスセンター」やシェアオフィス「The Company」をはじめ、福岡のまちに一流のアート作品をインストールする二郎さん。インタビューしながら、こんなかたちでアートが仕事になり、人々の暮らしに溶け込んでいくんだなと、はっとしました。
数少ない私の信念のなかに、『「一流」にふれること』があります。芸術文化もその「一流」のひとつであり、美術館や博物館は、普通の人が【もっとも少額でもっとも大きな価値に出会える場所】だと勝手に位置づけています。
一流の芸術文化が「特別なもの」ではなく生活の一部になれば、どんなにいい世界になるだろうか。今でもよく、そんなことを考えますが、学生時代には博物館学芸員資格も取った自分にとって、「アート」は憧れでもあり、叶わなかった世界のひとつでした。
一度はあきらめた道ではあったけれど……。でも、もし「まちづくり」の文脈からアートとつながりを持てるのなら、今の私の人生も、あながちアートとかけ離れていないのかも?
取材を終えて、積年の未練がすっと打ち消されたような、晴れやかな気分が訪れました。
『GOETHE』4月号、今月20日ごろまでは店頭で、以降はオンラインで買えると思うので、ぜひ手に取ってみてください。(もちろんWebからの購入でも)