Things

ライターはもっと本を読まなくていいのか?
by MayuYasunaga on 2023.6.1 Thu
村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』、読みました?
最近、よく考えることがあるんです。それは、「もしかしたら、わたしってそんなに文章が好きじゃないのかも?」ってこと。ライターや編集の仕事をしているのにもかかわらず、そんなことを考えちゃうのは、日ごろの読書量が少ないから。
私の本棚1
学生時代は一時、1日1冊のペースで読んでいたこともありましたが、今は月に1冊読まないなんてこともザラにあって。そもそも、本を買わなくなってるんだから、そりゃ読めるわけがないや、なんて変に納得したり、しなかったり。
私の本棚2
しかし、文章を生業にしているからには、文章にあたる時間を増やしたほうがいいのでは? そんな思いから、ここ1カ月くらいの間で、少しずつ読書量を回復してきました。
東京出張の帰りに羽田の本屋さんで買ったのは、村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』。帰りとはいえ、出張でハードカバーを手に取った勇気を誉めてあげたい。仕事の資料より重たい趣味の本。
帰りの機内で4分の1ほど読み、あとは寝る前や朝起きてから、時間のある時に。感想は、いろいろあるが、とりあえず「村上春樹 新刊 評価」で検索。さらにまたキーワードを変えて検索。人々はこれをどう読んだのか? うーん、これは誰かと語りたい(笑)。
そんなタイミングで発売になった『新潮』6月号。特集「七つの視座で読む村上春樹新作」に釣られて、久しぶりに文芸誌の最新号なんて手に取りました。シンガー・ソングライターの小沢健二さんのテキストがおもしろかったので、気になる方はぜひ。
文芸誌と言えば、2022年に第127回文學界新人賞を受賞した年森瑛(としもりあきら)の「N/A(エヌエー)」とその選評を読みたくて、中古で『文學界』2022年5月号を入手して読みました。
これは、おもしろかった! 単行本でも販売されています。
読書会で発表|フリオ・コルタサル『南部高速道路』
ライターのくせに、なかなか本を読まない不届者。
そんな私を救ってくれるのが、大学の出身学科(西南学院大学のフランス語専攻)の先生方と卒業生メンバーで開催してる「読書会」です。
読書会の開催場所、西南学院大学の学術研究所
まずは先生方以外で表者を決めて、その発表者が課題図書を決める。それを次の読書会までにみんなで読んできて、当日に意見を交換しあう。読んでなくても参加オーケー。という、ゆるめのレギュレーションで進行してます。
ところが、発表者になるとこれがなかなか大変。課題図書を決めて、発表用のレジュメを作成しなきゃいけないので、参加するまでの過ごし方と当日の気合いの入れ方がずいぶん変わってきます。
発表の順番が回ってくるのはおおよそ1年に1度ですが、この歳になると(今年39)、1年が経つのがとにかく早い(笑)。発表が終わったら「次の本、何にしよう?」と考えはじめるくらいでちょうどよくなってきました。
前回はちょうどわたしが発表の番。もとは池澤夏樹が編纂した『世界文学全集』(河出書房新社)から選ぶというルールだったので、その一冊に収められているフリオ・コルタサルの短編「南部高速道路」を課題図書に選びました。アルゼンチンにルーツをもつ作家です。
「南部高速道路」が収録されている文庫
そうそう、学科はフランス語ですが、読む本はフランスやヨーロッパ、海外文学でなくてもオーケーなんです。昨年はイサベル・アジェンデ『ワリマイ』、カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』、川端康成『雪国』など、国もテーマも自由。
レジュメの作成への姿勢は各発表者に任されているので、ミニマムにしようと思えば、2時間くらいで形式的な資料は完成するはず。
そこで手を抜けない性分があだとなり、自分の場合は、①課題図書を何度か読み込む(数時間)→②図書館で参考図書にあたる(リサーチ1~2時間、チェック2~3時間)→③必要な箇所を引用しながら資料作成(5~6時間)というふうに、だいたい丸2~3日かかる作業量になってしまいます。
「しまいます」だと語弊があるか。わたしはむしろその時間が好きで、毎回貴重な機会だと思いながら、物語を読み解いています。
『南部高速道路』は、フランスのパリ郊外に走る高速道路を舞台にした短篇です。日曜の午後、パリに戻る路線がすさまじく渋滞して車が全然動かなくなり、1日、2日、3日と経つうちに、いつの間にか季節までも変わっていって……。
登場人物たちは、体調を崩したり、自殺する人が出てきたり、この渋滞の間に妊娠する人もいたりで、ふだん私たちが暮らしている世界とは別の時間軸でストーリーが展開します。
冷静に考えると「マジかよ?」の連続なのですが(笑)、あまりにも何気なく出来事が起こっていくので、不思議さや矛盾を感じないまま、物語は結末へと向かっていく。これが作者のコルタサルのうまさで、「マジック・リアリズム」と呼ばれる作風でもあります。
時間をかけて作ったレジュメなので、読書会内だけで済ませるのはもったいない。ということで、学生以上院生未満の資料データを、画像で添付してみます。ざっと流し見すれば、どんなところが論点になっているかわかるかと思います。
発表の後の飲み会も毎回のたのしみ。会場はいつもだいたい西新の「あじさわ」か「リカリカ」で、ワインをみんなでシェアします。発表後の乾杯は、正直どんな仕事の後よりも緊張から解放された気分になれる……!
「あじさわ」で食べた「ねぎ明太焼き」
よく考えてみると、卒業からもう15年以上も経つのに、こうして会って時間を共有できるってすごいこと。大人になると、定期的にちゃんと会う人って、ほんとに少なくなるんだもの。
ただし、「じゃあ、1人1,000円で」と言ってくれる先生方にすっかり甘える時だけ、しばし20代(10代とは言わないよ)に戻りますごめんなさい。