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心とからだが求める家庭料理への回帰
Interviewer Mayo Goto / Text Eto Katagiri / Photo Shintaro Yamanaka[Qsyum!]
2020.12.25 Fri
数々の食空間を演出してきた料理家の大塚瞳さんが、2020年10月、大名の路地裏に「台所ようは」をオープン。自身初の店舗を構えることにしたきっかけや、食への思い、「台所ようは」を通して伝えたいことについて伺いました。
一日の疲れをときほぐす空間で、丁寧な「おばん菜」を提供したい。
大塚さんの食空間の表現方法として、これまではイベントという形がメインでしたよね。「台所ようは」を作ろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
ずっと世界中を飛び回る仕事をしていたのに、コロナの影響で急に身動きがとれなくなって、そのおかげと言うのも変ですが、食について立ち止まって考える時間ができたんです。40歳を目前にして、新しいことを始めてみようと思ったのもあり、毎日食べたくなる「ごはんプロジェクト」を立ち上げました。日本のおばん菜をテーマに、47都道府県にレストランを作ろうというプロジェクトで、その第一歩が「台所ようは」です。
様々な食文化に触れてきた大塚さんだからこそ、テーマの選択肢は広かったと思うのですが、日本のおばん菜にしたのはなぜですか?
私は“道の駅研究家”という肩書きを自分につけたいくらい道の駅が大好きで(笑)、今特に注目しているのが筑前町の「みなみの里」。その中のレストランで食べられる地元のお母さんたちの料理がすごく美味しくて、かまどで炊いたごはんと、その土地の野菜を使った筑前煮と、豚汁だけで満たされるんです。そこで思ったのは、世の中には様々な食があふれているけれど、最終的に人が求めるものは、慣れ親しんだ家庭料理なんだなということ。毎日食べたくなるごはんを見つめ直して、たどり着いたのがおばん菜でした。
私も大塚さん主催のイベントに参加させていただいたことがありますが、食材や料理の味はもちろんのこと、器や空間演出も含め、食事をする時間を「作品」として楽しめるのが魅力だと思っています。今回、店舗という形での新たなアプローチにおいて、空間作りで力を入れた点を教えてください。
靴こそ脱ぎませんが、家に帰って来たようなくつろいだ気持ちになっていただけるよう、壁を抜いたりペンキを塗ったりと、自分たちで手を加えました。また、ギャラリーのように店内が一つの景色として成立するよう、カウンターはシンプルな作りにして、器が映えるように意識しました。古い建物に合わせて骨董品を集め、器も幕末、昭和初期などの年代物が中心です。
Pick up
おばん菜を彩る器たち
「古い器は出会った時に即購入するのが大切」と話す大塚さん。カウンターや調理場に並ぶ趣深い器は、大塚さん自らがこのお店のオープンのために一から集めたもの。
一人でも気兼ねなく立ち寄れる雰囲気がいいですね。席数はどのくらいですか?
1、2階合わせて75席あります。ゆくゆくは2階をバーにしたいと思っていて、朝はお粥、昼はランチ、お茶の時間にお菓子が出て、夕方5時から早めの夜ごはんが食べられて、12時を回るとお酒だけを出す空間が開いて、というように、24時間お客さまを受け入れるお店にするのが理想です。
素敵ですね。では、料理に関してはいかがですか?
仕事や子育てをしながら毎日ごはんを作るという行為は、かなりのハードワークです。手抜きをするためにお惣菜を買ったとしても、食卓に広げて片付けるだけで大変ですよね。疲れて家に帰るのと同じ感覚で、このお店に来てほしいと思っています。「ごはんと味噌汁が食べたい」とか、「今日はおかずとお酒だけでいいな」とか、一日の終わりの食事を自分でコーディネートできるように、一品ものや炊き込みごはんの他、日替わりのおばん菜を8〜10種類揃えています。和食だけだと飽きてしまうので、ワインに合う少し洋風のものや、近隣の国のスパイスを効かせた料理もあります。おばん菜はそのまま小皿に盛るのではなく、注文を受けてから餡をかけたり、一手間の仕上げをして提供するようにしています。
また私が大好きな中国酒もたくさん揃えていて、食事に合う度数の低いものから用意しています。日本酒が和食に合うのと同じように、中国酒はスパイスの料理と合わせるとこんなに美味しいんだということを感じてもらい、新たな味覚のドアを開けるきっかけになれば嬉しいですね。
大塚さんの料理は、すっきりとしてシンプルな味わいなのに、心に響く満足感があります。この美味しさはどこから生まれるのでしょうか?
私自身、素材のもとの姿や味のわかるものが好きで、例えばハンバーグにするよりもお肉のまま食べたいタイプ。また、音も美味しさの一つだと思っているので、カリッとかポリッとか、食感も一緒に楽しめるように、グリルした時にいちばん美味しい大きさや、煮崩れしない火の入れ方を考えて作っています。素材本来の味を伝えようとすることが、そうした満足感につながっているのかもしれませんね。
味付けに関しては、甘みで重くならないよう、九州の醤油ではなくさっぱりしたものを使っています。浸透圧をかけて脱水する時以外は、砂糖もほぼ使いません。木の箸や陶器のボウル、ホーローの容器などを使って、できる限り食材を金属に触れさせないようにもしています。
丁寧な仕事の一つ一つが味に表れているのですね。では最後に、今後の展望を教えてください。
日本列島には、全国に四季折々の郷土料理が根付いています。その土地で育まれた食材の魅力を多くの人に伝え、地元で愛される文化を受け継いでいくための食空間を提供することが、今一番興味のあることです。毎日食べたくなる「ごはんプロジェクト」に賛同してくれる人を増やせるよう、「台所ようは」とともにチャレンジを続けていきたいです。
店舗情報
台所 ようは
福岡市中央区大名1-4-28
TEL:092-739-9105
営業時間:17:00〜24:00
Instagram(@daidocoro_youha)
大塚 瞳 / 料理家・台所ようは店主
1981年福岡県生まれ。料理上手でおもてなしを大切にする祖母や母の影響で、幼い頃から料理や客礼に興味を持つ。世界中の様々な食に親しみ、大学在学中は料理研究家のもとで学ぶ。大学在学中の2004年、居心地の良い空間で過ごす食のひと時をテーマに「Life Decoration」を立ち上げる。現在は、自ら生産者を巡り探し求めた食材を使っての出張料理会や食空間のプロデュースを行う他、店舗、旅館、特産品などのメニュー開発も手がける。新宿伊勢丹 有田焼創業400年記念料理会、小樽 旧円山圓吉邸 修築披露料理会、有田ポーセリンラボ 有田焼創業400年記念料理会、常滑(とこなめ) 吉川千香子窯 料理会、日田 SnowPeakキャンプ場でのグランピング料理会、唐津 旧大島邸 唐津焼料理会 等
HITOMI OTSUKA
Instagram(@hitonme1103)