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[あのこと。]
#1 ルカちゃんとスタミナ亭
Edit_Mayo Goto / Text_Eto Katagiri / Photo_Yusuke Sugiyama
2022.9.7 Wed
可愛いあのこと地元めし。そんなときめくシチュエーションを、妄想いっぱいに切り取ってみました。
夏の終わりの木曜日。明日は久々にふたりとも休みだから、Netflixで朝まで『ONE PIECE』を観ようと盛り上がった。2話目のエンディングテーマが流れ始めたころ、彼女が突然騒ぎ出す。
「タンが食べたい!」
あるよね、発作的に肉が食べたくなること。そして彼女がそう言う時は、不思議と俺も肉を欲しているタイミングなのである。
もう時間も遅いし、こんな時はスタミナ亭に行くのが我らのルーティーン。甘ったるい蒸し暑さにうんざりしながら、小指をつないで歩く。黄みがかった灯りが照らす清川の路地は、すえた空気に親しみと緊張感が混ざる。
レトロなネオン輝くスタミナ亭は、俺的カッコイイ大人が集まる場所。福岡らしからぬ多国籍感と、客同士の無関心な距離感が粋なのだ。
「やっぱまずはユッケでしょ」
「いや、今日はタンの気分なの。塩」
気がつけばテーブルの上は彼女の独壇場。まあ、いいか。
「俺、坊主にしようかなと思って」
「え、ずるい。私も色変えたいのに」
君も坊主にしたいならわかるが、何がずるいのかわからない。
「でもね、最近髪の調子いいんだ。美容師さんに教えてもらったOLAPLEXのトリートメントが超優秀なの」
2秒後には黒髪のまま宣言。コロコロ変わる話題と、コロコロ笑う彼女の顔。見ている俺の顔までゆるむから困る。
一緒に住んで3年目。可愛い可愛いミニチュアシュナウザーの“エレ”も仲間入りした。どの柄にするか、ふたりで悩みに悩んで買ったbfgfのブランケットも、エレのおかげですっかりボロボロである。
「次は別の柄を買おうと思ってるの。ねえタンもう一回頼んでいい?」
柄も肉も、君の好きにしなさい。そういえば、一緒に住もうと決めたのもスタミナ亭に行った夜だったな。
「俺たちなんで一緒に住むことになったんだっけ?」
「ごはん食べた後、バイバイするのが嫌になったからだよ」
たまに不意打ちでキュンとさせてくるから困る。
ごちそうさまでした。ああ腹いっぱい。帰ったら『ONE PIECE』をもう1話だけ観て寝よう。エアコンで冷えた、とおもむろにピンクのスウェットを取り出す彼女。そういうとこ、ぬかりないんだよな。
焼肉のにおいプンプンの俺と、Aesopのマラケッシュがふんわり香る彼女。夜明けまであと少しの清川の空を眺めながら、小指をつないで歩く。次はユッケも食べさせてね。
ルカちゃん
大分出身。アパレル勤務。大好きな『ONE PIECE』の新作は公開初日にチェック済み。
Instagram:@ruluu112t