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映画『千夜、一夜』と幸せの価値観

映画『千夜、一夜』と幸せの価値観

by MayoGoto on 2022.10.5 Wed

ずいぶん前の話になりますが、小学生の頃に『モモ』という本が流行りました。主人公の少女モモが、時間泥棒からみんなの時間を取り戻す話です。この本では現代社会で忙しく働く大人に、時間と引き換えに失うものの大きさを説いています。当時すでに「1日24時間じゃ足りない」と、限られた時間に対し悩んでいた私は余計ソワソワしたものです…。

今回は、そんな「時間」について考えた当時をふと思い出した映画のこと。

先日、10/7(金)公開の映画『千夜、一夜』をひと足先に試写させてもらいました。この作品は全ての人に等しく流れる「時間」を軸に、“最愛の人がいなくなった時にどう過ごすか”を問うものとなっています。突然想像もしなかった世界が訪れた時に人はどうなってしまうのか? 登場人物それぞれがもがく姿にどんどん引き込まれ、2時間弱があっという間に感じました。

『千夜、一夜』は、年間約8万人いるという“失踪者リスト”に着想を得て製作された作品。北の離島の美しい町で何も言わずいなくなった夫を待つ妻の物語です。田中裕子さん演じる主人公・登美子は、いつまでも変わらぬ夫婦関係を信じ30年も帰らぬ夫を思い続けます。彼女には好意を寄せてくれている春男という男性が側にいるのに。ダンカンさん演じる春男は、登美子が結婚する前からずっと思いを寄せているようなのに、彼女は一切振り向きもしません。待ち時間の長さを考えたらたぶん主人公以上なんじゃないかなと思うと…とても切ない。

そして、この物語には主人公と対極的な考え方をするもう一人の待つ女が出てきます。尾野真千子さん演じる奈美という女性は“次に進む”ために、夫が2年前にいなくなった理由を探し登美子に相談を持ちかけてきます。

ある日、登美子が街中で偶然失踪した奈美の夫・洋司(安藤政信さん)を見かけ連れ戻したことから、物語は一気に急展開。複雑な人の感情や本質が露わになっていき…。

本編公開写真より。いくつになっても諦めない主人公の姿が痛々しい。上記写真の夫は当時の姿である27歳(現在は57歳)。185cm・筋肉質・ロン毛という私の想定よりだいぶいい男で驚きました。これぞリアルな感じもして、やっぱりイケメンは手に負えないわ…。

印象的だったシーンで、登美子が夫の好きなところを尋ねられ「私がいちばん楽しくて綺麗だった」と返します。登美子は当時の夫婦のやりとりが残る1本のカセットテープを大切にしており、辛くなった時にはいつもそれを聞き返し、幸せな時を取り戻そうとするんですね。昔から、「あの人といる時の私がいちばん好きで幸せ」的なことを恋愛話でよく聞いてきましたが、こういう結果がいつか待っているかもしれないと思ったら本当に怖いですよね…。ただそれと同時に、最愛の人との時間がいかに人生において重要かを考えさせられます。

そうそう、別の作品で(仲野太賀さん好きとして)次に観たい映画としてピックしている『ある男』にも本作と少し似たところを感じていて。この映画のテーマはパートナーからの裏切りに直面した時、人はどう対峙するかなんですが、こういったパートナーとのあり方や幸せをあらためて考えてみることが今の時代にきっと必要なのだろうと思います。

※映画『ある男』… 11月公開の映画。死後に別人と判明した男の身元調査を依頼された弁護士が、他人として生きた男の真実を追う姿を描く作品

最後に『千夜、一夜』は、その映像美も見どころのひとつです。撮影はドキュメンタリー出身のカメラマン・山崎裕さん。私は是枝裕和監督や西川美和監督などの作品で拝見したことがあります。山崎さんは長回しによるカメラワークが素晴らしく、その独特な手法により人の生々しい感情や舞台となった新潟県佐渡島の土地の空気や温度をしなやかに映し出しています。その風景と、役に一体化しているキャスト陣の演技にも心惹かれるものがあります。言葉選びも本当に繊細で、一度では捉えきれない人の機微がたくさん散りばめられているとにかく見応えのある作品です。ぜひみなさんもいちどチェックしてみてください。

©2022映画『千夜、一夜』製作委員会

Infomation

映画『千夜、一夜』
10/7日[金] KBCシネマほか全国にて公開 
https://kbc-cinema.com/
配給:ビターズ・エンド
https://bitters.co.jp/senyaichiya/#modal
公式Twitter:
https://twitter.com/senyamovie