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おいしい顔に満たされる映画『土を喰らう十二ヵ月』

おいしい顔に満たされる映画『土を喰らう十二ヵ月』

by MayoGoto on 2022.11.8 Tue

昔からお世話になっている映画宣伝会社「スプレンド」の川本さんから、フリーランスとなった現在でもありがたいことにプレスリリースをいただきます。立て続けになってしまいますが、近日公開の映画『土を喰らう十二ヵ月』もとても良かったのでご紹介です。たまたまですが、前回取り上げた田中裕子さんの旦那様である沢田研二さん主演の作品。

タイトルにある“土を喰らう”とは、旬を喰らうということ。昔の人は「台所と畑はつながってないといけない」「食べること、季節と共に過ごすことは生きることそのものである」と考え暮らしていました。映画は、そんな日本の食の原点に立ち返り畑と暮らす著者による料理エッセイ『土を喰う日々』(水上勉・著)を原案としています。

水上勉さんは、9歳から13歳まで禅寺に住み精進料理を習得。自ら育てた野菜を使って作る料理は日々の楽しみであり、人生そのものでした。本作は彼の過ごしたある1年を通して、食べ方=生き方なのだと教えてくれます。

物語は、メインイメージから想定されるものよりも遥かに深いもので、主人公のツトムがあることをきっかけに死生観と向き合うことになり、歩幅やペースは違えど、上手に並走してきた歳下の恋人との距離を一から考え直すという話になっています。

ツトムが大切な人を守るためにとる行動のひとつひとつが本当に切なく、やるせない気持ちになります。

幸せしかない食卓のワンシーン。その前後には本当にいろいろとありますが、それらを凌駕するひと時。

この映画の見どころは何と言っても「食材」の素晴らしさ。ツトムの畑は、山荘前の空き地を開墾し土づくりからスタート。メインの畑以外にふたつ畑を作り、撮影用の野菜の大半はここで作られました。このために、助監督と制作スタッフが撮影地である長野県の白馬に移り住み、毎日の水やりを欠かさず育てあげたというから驚きです。撮影の時期に収穫ができるように計算して種を蒔き、とくに時間のかかるミョウガは1年前から育てたそう。それもあって撮影期間は1年半かかったとか。

劇中においても、栽培や収穫の丁寧な描写が印象に残ります。近隣の山で採れたての山菜を蒸し焼きにして食べたり、寒い中、川のいつもの場所に芹があった時など旬ものの収穫に感謝するシーンがとてもいい。その風景美はもちろん、食材それぞれの繊細な色合いも逃さず撮られています。

本作には、映画初挑戦だという土井善晴さんが関わられており、食材選びや扱い方、手捌きの指導や器選びを担当。素材を引き出すシンプルな料理の良さを感じられます。

そうそう、土井先生の料理本『素材のレシピ』もいいですが、NHKの『みんなのきょうの料理』で紹介されているレシピもいいですよね。中でも肉じゃがのレシピが最高なのでまだの方はぜひやってみてください。これで作ったら今まで何やってたん私ってくらい、ホクホクの甘いじゃがいもを味わえて感動しました。

劇中音楽も面白いので必聴です。主人公のツトムのこころの緩急を全編フリージャズで表現していたり、自らを鼓舞し一生懸命に生きるツトムのテーマソングとして鉄腕アトムが使われていたり、随所でグッとくるものがあります。

フリージャズを担当しているのは、あの有名な大友良英さん。NHKの『あまちゃん』や『いだてん』の音楽などをやっていらした方で、今クールから始まったドラマの『エルピス』の音楽もめちゃくちゃ素敵です(サントラ、11/23リリースです)。

最後に、ツトムの恋人役である松さん好きとしては言っておきたい、彼女のおいしい顔も見逃せません。こんなに表情ひとつでおいしさって表現できるものなんですね。全編観ても、やはりこの特報で使われている若竹煮を食べるシーンが魅力的です。

たけのこは嫌いだけど……、おいしそうに食べる松さんを観ていたら、イケる気がしてきます。ああ、おいしそう!

劇中で「体を動かしていればまた次にやるべきことが見つかる。動けばお腹がすくし、ご飯もうまい」という主人公の台詞があります。

私も小さい頃から、何があってもご飯を欠かさず、食べものがおいしく感じられれば大概のことは何とかなると育ってきたので、食事が与えてくれるものの大きさを改めて感じました。

混沌とした現代の暮らしにあって、人生に必要なこととは何かを気づかせてくれる作品です。

©2022映画『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

Infomation

映画『土を喰らう十二ヵ月』
11/11日[金] KBCシネマほか全国にて公開
https://kbc-cinema.com/
 
作家のツトムは人里離れた長野の山荘で一人、暮らしている。山の実やきのこを採り、畑で育てた野菜を自ら料理し、季節の移ろいを感じながら、原稿をしたためている。時折、担当編集者で恋人の真知子が、東京から訪ねてくる。食いしん坊の真知子とふたり、旬のものを料理して一緒に食べるのは楽しく、格別な時間。悠々自適に暮らすツトムだが、13年前に亡くした妻の遺骨を墓に納められずにいる……。
 
配給:日活
https://www.nikkatsu.com/movie/tsuchiwokurau12.html
公式 Instagram:
https://www.instagram.com/tsuchiwokurau12/