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Mnemosyne(ムネモシュネ)

Mnemosyne(ムネモシュネ)

by MayoGoto on 2021.1.27 Wed

タイトルを見てすぐにこれが何を意味しているのか、わかる人間だったら…。恥ずかしながらMnemosyneの意味が分からないなか、表紙買いをした写真集の話です。

先日、東京にあるアートやデザイン関連の出版・編集をやっている「HeHe(ヒヒ)」のインスタグラムをきっかけとし、久々に久家靖秀さんの作品を購入しました。

Mnemosyneとは、ギリシャ神話で記憶を司る女神のこと。どうやらSwitchなどゲームにも出てくるほど、メジャーなヒロインのようですね。

今回の作品は、一見ではわからなかったタイトルをはじめ、作品から漂うもの全てが個人的にこれまでの久家さんの世界観とは違っていて、いい意味で裏切られたような気持ちになり咄嗟にポチってしまいました。衝動的に購入ボタンを押したものの、予約販売期間だったので実際手にしたのは11日後という計算外なこともあったのですが…。そのぶん、手にしたときは本当にうれしかったです。

そもそも久家さんを知ったのは2007年くらい。有山達也さんがADで、制作スタッフの関係性がよく丁寧なものづくりが評判だった雑誌『ku:nel』で見かけたことからはじまります。

当時、久家さんはリトルモアを創業した竹井正和さんが主宰する「FOIL」というギャラリーにも所属していて、そこが好きだったこともあり私はよく作品を拝見していました。

ちなみに、ぱっと思いつく作品でいえば宇多田ヒカルさんの『First Love』のアルバムジャケ写も久家さんによるものです。さらに、久家さんは福岡の警固生まれだそうで、昔から勝手に親近感があります。(九州人にありがちな地元意識ってやつですね)

FOILから出た写真集。『庭と園』 2008, Atelier2009年。

きれいに整えられたものを撮影しているわけではないのに、久家さんの写真にはどれも息を呑むような美しさがあります。

今はなき雑誌『HF(ハイファッション』の人気連載企画で、美術家の制作現場を撮り続けた作品集『Atelier』の発表から10年。今回私が買った写真集で、久家さんがフィーチャーしたアーティストは2人のパフォーマー。これまでの静かで凛とした雰囲気のものから一変して、絶えず動く人を捉えた新しい形のものでした。

Mnemosyne』では、ダンスユニットとして活動されている砂山典子さん(ダムタイプ)、池宮中夫さん(ノマド~s)が登場します。(と言ってもほぼ人物は特定できない絵画的表現による展開ですが)
2人の裸での身体表現を様々な角度でおさえているのですが、それがずっと156ページも続くんですね。ただ飽きることはありません。動きの順や2人のボリューム・バランスが不思議で、ついページを前後したり、何度も見返したり。むしろ見るのに時間がかかりすぎるぐらい楽しめます。

またポートレートでありつつ、派手なメイクやファッションがない分、変な先入観を抱かず、その人の印象を決める要の表情やしぐさ、動作などがシンプルに際立っていて、それぞれ本当に格好いいから不思議でした。

著者のコメントに“身体がどんどん縮こまっていくような息苦しさを感じるコロナ禍の中でパフォーマーは様々な身体表現生成の瞬間を見せつけてくれた。”とありましたが、こんな困難なときを伸びやかに生きた2人の証として、見た人の記憶に鮮明に残る1冊となると思います。

巻末には著者後記のほか、元『WIRED 』日本版編集長の若林恵さんによる寄稿もあります。

若林さんは、フランスの詩人で画家のアンリ・ミショーの言葉“もしも動かないと、わたしはその場で腐ってしまう”を引用しながら、動き続ける人の尊さ、そこから人が得られる充足感を語っています。これがまたよくてこの作品世界をぐっと広げてくれるんです。ぜひ、気になった方は一度ネットで見てみてください。

そこでお得情報をひとつ、『Mnemosyne』はHeHeオンラインショップで買うと久家さんのZINE 2種が付いてきます。

3/13まで、東京の「TIME & STYLE MIDTOWN」で刊行記念展も開催中。あ〜行きたい。

またすぐに現物を見たい方がいたら、薬院新川沿いに最近オープンしたアート系本屋さん「青旗」にもありましたので店頭で試し読みしてみることをおすすめします!マット調のしっとりした風合いの紙質もよくて、ついつい触りまくりたくなると思いますが、それは買ってからですね!

久家さんについて詳しくは公式サイトにて。
https://kugeyasuhide.com/

〈おまけ〉
ダイスの吉田さんがDNAのことを言っていましたが、後藤家の場合は代々写真好きDNAが流れています。私は見る派。みんなは撮る派ですが…

思い返すといつも祖父は、自分の撮った写真コレクションをあの当時まだ珍しかったプロジェクターで壁一面に映しながら、「どれが1番いい写真と思うか当ててみなさい」と私の見る目を試したものでした。あれはちょっとヘビーな時間だったけど、今となればいい経験だったのかも?

何だか懐かしくなり物置から祖父の写真集(なんと自費出版!)を引っ張り出してきたので、記念に後藤重男さんの写真集も掲載しておきます。(著者名のときはしげおってかわいい感じにするんだよね)